「おっ」
山積みにされたお宝の中、無造作にその大きな手を突き入れたウボォーギンが喜色の混じった声を上げた。
皆に混じってウボォーギンの掌が握るそれを目にした男は思わず眉をしかめる。何に使うかも分からないピラミッドの模型だった。
「ルーク、帽子欲しがってたよな」
ほい、と投げ渡されたそれを反射的に受け取ってしまった男は、ピラミッドをいじくり確かに頭を入れる穴が空いていることを確かめてからぼやく。
「確かに帽子が欲しいとは言ったけど」
重い、と続けようとした時だった。物欲しそうな視線を感じて男は視線の主を探す。それはすぐに見付かった。
「フィンクス? 欲しいのか?」
「ああ。くれ」
目を輝かせてピラミッドを見詰めていた。その様子を認めた男は、ゆるりと立ち上がる。
周りの男達、ウボォーギンやフランクリンに比べれば小柄に見えるが、フィンクスと同程度の身長を持ち鍛えた体躯を持つ男は、フィンクスに向けて背負っていた棒を突き出す。その口許には楽しげな笑みが浮かんでいた。
「俺に勝ったらやるよ」
後に男はぼやく。
フィンクスが欲しがっていたから、つい本気を出してしまっただけなんだ。決してこれを本気で欲しかった訳じゃないんだ。
ピラミッドを被った重い頭を抱えながら。
「ルークどうしたの?」
「恒例の馬鹿やっただけよ」
「フィンクスとやり合って手に入れた帽子、みたいなのに呪いがかかってて取れなくなったんだってさ」
事情を聞いてぷっと吹き出したシャルナークは、項垂れる男の前に屈みこむ。そして愛嬌のある顔に笑みを浮かべた。
「そんなルークに朗報」
「なんだ」
機嫌の悪さを全面に押し出す殺気立った声を気にせず、言葉を続ける。
「今年の試験もヒソカ受けるって」
昨年のことを思い出したのか男は眉間に皺を寄せた。未来の知識を得る為に参加した去年は、ヒソカに遊ばれて終わったという。途中で帰ってきたあとは暫く荒れていた。
「もう一つ」
男の前に人差し指を一本立て、シャルナークは笑みを深める。
「今年の受験者名簿の中に、キルア・ゾルディックの名前を見付けた」
その名を耳にした途端、男の瞳は爛々と輝き出した。
「やだあ」
人気の少ない路地裏に、その少女の発した声は存外によく響いた。しかし、それを聞く者は今や一人しかいない。
崩れ落ちるように座り込んだ少女の傍らに倒れた壮年の男は、既に息絶えていた。
その二人を見下ろす男は、薄い唇に笑みを刻む。
「やだ。死んじゃ嫌だよ。せっかくせっかく」
涙に邪魔されてそれ以上は何も言えなかった。しゃくりあげた後、それでも少女は必死で顔を上げる。大切な人の命を奪った男を睨みあげる。
「ゆるさない」
殺意をこめた言葉と視線を向けられた男は、心地よさ気に目を細めた。
「ヒソカ。絶対にあんたを許さない。いつか絶対殺してやる」
ヒソカと呼ばれた男はにんまりと笑みを深めて。
「楽しみにしてるよ」
その後、少女が大切にしている名前を呟いた。
「黙れ!」
少女は激昂する。その名前で少女を呼んで良いのは、世界でただ一人、今少女の傍らで静かに息を引き取った男だけだったのだ。
「怖いなあ」
軽やかに言葉を転がし、少女を煽り続ける。
少女は胸を焦がす激情の行き先を探して、ゆるりと立ち上がった。その道程が苦しく険しいものだと知りながら。